ジョージ・ネルソン | ミッドセンチュリーを代表するアメリカモダニズムデザインの旗手。
2024.04.10 デザイナーズ家具ジョージ・ネルソン(George Nelson:1908~86年)は、その革新的なデザインと多大な影響力で、ミッドセンチュリー期を彩った巨匠です。
「ココナッツチェア」「マシュマロソファ」「スワッグレッグ・グループ」など、アイコニックな作品の数々は、現代のデザインにもなお色鮮やかに息づいています。
この記事では、ジョージ・ネルソンの半生をふまえつつ、彼のデザイン哲学と功績に迫ります。
1972年創業の旭川の家具メーカー「WOW」は、デザイン賞を受賞したデザイナーと共同製作した家具を取り扱っております。そんな作り手であるWOWが、「デザインの歴史」を紐解き、学びながら、「デザインとは何か」「いい家具とは何か」「これからの時代に求められる家具とは何か」を見つめ直すことには、大きな意義があるのではないか。私たちはそう考えています。
家具デザインの革新とハーマンミラー社の飛躍
建築雑誌『Architectural Forum』の編集者としてキャリアをスタートさせたネルソンは、1945年、画期的なシステム家具「ストレージウォール」を発表。
ライフ誌で大きく取り上げられたこの作品は、家具業界に旋風を巻き起こし、ハーマンミラー社の創業者D.J. デプリーの目に留まります。ネルソンをデザインディレクターに迎えたデプリーの慧眼は、ハーマンミラー社を飛躍へと導きました。
イームズ夫妻やイサム・ノグチを世に送り出す慧眼
ネルソンはハーマンミラー在職中、チャールズ&レイ・イームズ夫妻やイサム・ノグチといった才能あるデザイナーたちを世に送り出し、彼らとのコラボレーション作品も数多く生み出しました。
その手腕は、「ほとんどのモダンデザイナーと仕事をした」と言われるほど幅広い交流と影響力の中で発揮されました。
「反人間的な価値を壊し、トータルなデザインを目指す」
ネルソンは、「デザイナーは創造性を生かして人々のニーズに応えるためには、まず、反人間的と思われるあらゆる価値を根底から意識的に壊さなければならない」と述べています。
「トータルなデザインとは、すべてとすべてを関連づけるプロセスにすぎない」という言葉の通り、幅広い知識と理解に基づいた総合的なデザインを志向しました。
編集者としての経験が活かされた幅広い視点
編集者としてのキャリアを持つネルソンは、単なるデザイナーの枠を超え、社会全体を見渡す広い視野と洞察力を持っていました。その視点こそが、彼が革新的なデザインを生み出し、時代を牽引する存在となった原動力と言えるでしょう。
現代にも受け継がれるネルソンのデザイン哲学
ネルソンが残した数々の作品は、半世紀以上を経た今もなお、人々を魅了し続けています。彼のデザイン哲学は、現代のデザイナーたちにも大きな影響を与え、時代を超えて受け継がれています。
ネルソンは、デザイナーの仕事は世界を“より良い場所”にすることだと確信していました。彼にとって自然は完璧な存在でしたが、人間は自然の摂理に反するものを作り出し、その調和を乱している――と考えていました。
ジョージ・ネルソンのスタジオの代表作
マシュマロソファ
1954年、ジョージ・ネルソン・アソシエイツ社によって発表された「マシュマロ ソファ」は、そのユニークなデザインと快適な座り心地で瞬く間に人気を博しました。
これまで、マシュマロ ソファーのデザインはジョージ・ネルソン本人によるものと考えられてきました。しかし、近年発掘された資料によって、実際のデザインはジョージ・ネルソン・アソシエイツ社のデザイナー、アーヴィング・ハーパーによるものであることが判明しました。
製造・販売はハーマンミラー社で行われ、オリジナルの生産数はわずか186個と希少価値の高いソファとして知られています。
ココナッツチェア
ネルソンの代表作である「ココナッツチェア」(1958年)は、その名の通り、ココナッツの殻からインスピレーションを得て誕生しました。
布張りのガラス繊維強化プラスチックシェルは、ココナッツの殻のような有機的なフォルムをしており、座る人の体を優しく包み込むような座り心地を提供します。
鋼管製の3本脚のベースは、細いクロスバーを使用して安定性を確保。浮いて揺れるようなフォルムは、フレームによってしっかりと固定されており、床に固定されているかのような安定感と安心感を与えます。
ボールクロック
1949 年、スタジオ「ジョージ ネルソン アソシエイツ」がハワードミラークロックカンパニーのために設計した世界的に有名な時計です。
時計の文字盤にボールをあしらったシンプルながらもユニークなデザインが特徴です。時間を確認する度に、見る人を楽しませてくれる遊び心溢れるデザインは、誕生から半世紀経った今でも色褪せることなく、人々を魅了し続けています。
バブルランプ
バブルランプは、スウェーデン製のシルクで覆われたペンダントランプから着想を得て、デザインされました。当時の最新技術である樹脂スプレーを用いて、金属フレームに半透明の樹脂を吹き付けるという、革新的な手法を採用しました。
シンプルなフォルムから幻想的な光を照らし出すその美しさは、商業的に大きな成功を収めるとともに、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の永久保存コレクションにも選定されています。
さいごに
ジョージ・ネルソンは、ミッドセンチュリーを代表するデザイナーとして、家具デザインだけでなく、建築、インテリア、プロダクトデザインまで幅広い分野に足跡を残しました。
彼の作品は、単に機能的で美しいだけでなく、常に人間と自然の調和を追求するものでした。それは、彼が自然を「すでに完璧な存在」と捉え、人間が作り出すものは自然の摂理に従うべきだと考えていたからです。
ネルソンは、デザイナーの仕事は「世界をより良い場所にすること」だと確信していました。そして、その信念に基づいて、人々の生活を豊かにする数々の作品を生み出したのです。
彼のデザイン哲学は、現代のデザイナーにも大きな影響を与え続けています。その功績は今後も語り継がれていくでしょう。