エーロ サーリネン | 北欧モダンの精神でアメリカに挑戦したデザイナー。
2024.04.17 デザイナーズ家具フィンランドに生まれ、アメリカで活躍した建築家・プロダクトデザイナー、エーロ・サーリネン(Eero Saarinen:1910~61年)。その作品は、シンプルで印象的なアーチ状構造と、常に新しい挑戦と革新への情熱によって彩られています。
家具デザインのみならず、建築家としても数多くの名作を残しました。ワシントン・ダレス国際空港、セントルイスのゲートウェイ・アーチ、ケネディ国際空港TWAターミナル、CBSビルディングなど、時代を象徴するモニュメントは、人々の記憶に深く刻み込まれています。
サーリネンは、伝統的な様式に縛られることなく、有機的なフォルムや斬新な構造を積極的に取り入れました。その作品は、単なる機能性にとどまらず、見る者を魅了する芸術性をも兼ね備えています。まさに、時代を先駆ける巨匠と言えるでしょう。
この記事では、そんなエーロ・サーリネンの半生をみるとともに、デザイン哲学に迫ります。
1972年創業の旭川の家具メーカー「WOW」は、デザイン賞を受賞したデザイナーと共同製作した家具を取り扱っております。そんな作り手であるWOWが、「デザインの歴史」を紐解き、学びながら、「デザインとは何か」「いい家具とは何か」「これからの時代に求められる家具とは何か」を見つめ直すことには、大きな意義があるのではないか。私たちはそう考えています。
デザインに囲まれた幼少期
フィンランド人の両親、建築家エリエル・サーリネンとテキスタイルアーティストのロハ・サーリネンのもと、エーロ・サーリネンは幼少期よりデザインに囲まれて育ちました。
1929年にはパリで彫刻を学び、翌年にはイェール大学建築学科に入学。1934年には母校であるクランブルックアカデミーで教鞭を執るなど、早くからその才能を発揮していました。
盟友チャールズ・イームズとの出会い
1936年、アメリカへ戻ったサーリネンは、父の建築事務所で見習いを務める傍ら、ブルームフィールドヒルズのクランブルックアカデミーで教鞭を執りました。
そこで、生涯の親友となるチャールズ・イームズと出会い、意気投合。2人は共に新しい家具の形の実験を始め、成形合板を用いた革新的な家具を開発しました。
1940年、サーリネンとイームズは共同名義で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)主催の「Organic Design in Home Furnishingsコンテスト」にオーガニックチェアを発表。この作品はグランプリを受賞し、彼らを一躍脚光へと押し上げました。
フローレンス・ノルとの出会い
クランブルックアカデミーでは、サーリネンは父親であるエリエル・サーリネンの教え子であったフローレンス・ノルと出会い、生涯続く深い友情を育みます。フローレンスはサーリネン家に夏休みを過ごすほど親密な関係となり、後にKnoll社の社長に就任します。
1940年より15年以上に渡り、サーリネンはフローレンスからの依頼を受け、Knollを代表する家具作品を数多く生み出しました。チューリップチェアやウームチェアは、現代的な素材を用いた優雅で有機的なデザインが特徴で、Knollのアイコン的存在として世界中で愛されています。
建築家としての功績:時代を象徴するモニュメント
家具デザインだけでなく、サーリネンは建築家としても多くの作品を残しました。代表作としては、ワシントン・ダレス国際空港、セントルイスのゲートウェイ・アーチ、ケネディ国際空港のTWAターミナル、ニューヨークのCBSビルディングなどが挙げられます。
これらの作品は、いずれも時代を象徴するモニュメントとして、人々の記憶に深く刻み込まれています。特に、セントルイスのゲートウェイ・アーチは、高さ192m、幅192mの巨大なステンレス鋼のアーチで、サーリネンの代表作として広く知られています。
エーロ・サーリネンの家具の代表作
チューリップチェア
ミッドセンチュリーを代表する革新的な椅子です。
一本脚で自立するデザインは、テーブル下のスペースを有効活用し、空間をすっきり見せるために、サーリネンが長年の研究を重ねた末に生まれたものです。
それまでの椅子の概念を覆す斬新なデザインは、世界初であり、瞬く間に大きな話題となりました。
床から伸びる力強い一本脚と、花弁のように優雅に曲線を描くシェルは、まるで一輪の花のよう。 その美しいフォルムから、チューリップチェアという名が付けられました。
シェル部分は耐久性と質感に優れたプラスチック、脚部は強度を考慮したアルミダイキャストを使用。異なる素材を融合させながらも、調和のとれたデザインは、まさに名作と呼ぶにふさわしいものです。
ウームチェア
1946年にKnollのために誕生したウームチェアは、モダンデザインの新たなスタンダードを提示した画期的な作品です。
フローレンス・ノルの「たくさんのクッションの中で丸くなれる、バスケットのような椅子」というリクエストに応えて、サーリネンは母なる子宮を想起させるような有機的なフォルムを生み出しました。
ウームチェアの特徴は、その包み込むような優しいフォルムです。 背もたれと座面が一体となった丸みを帯びたデザインは、どんな座り方にも柔軟にフィットし、長時間座っていても疲れにくい快適な座り心地を実現しています。
グラスホッパー
1946年に誕生したグラスホッパーチェア。時代を超えた洗練されたクラシックなデザインで、今なお多くの人々を魅了し続けています。
大胆でユニークなフォルムは、1940年代と1950年代の純粋なモダニズムを体現しており、何十年経っても色褪せることのない優雅さを誇ります。
背もたれと座面が一体となった有機的なフォルムは、まるでバッタの脚のように軽やかに伸び、空間を軽快な印象に演出します。
さいごに
1961年、エーロ・サーリネンは51歳という若さで脳腫瘍のためこの世を去ります。
サーリネンの挑戦的な姿勢は、常に評価されるわけではありませんでした。 作品ごとに作風を変えるそのスタイルは、建築界の権威から無視され、嘲笑されることもありました。
しかし、時代が追いつき、サーリネンの革新的な作品群の価値が認められるようになりました。
ゲートウェイ・アーチをはじめ、多くの未完成プロジェクトを残しながらも、その革新的な作品群は、20世紀アメリカ建築の巨匠として彼の名を刻み続けています。