「家具の彫刻家」ハンス・J・ウェグナーの時代を超えても揺るがない造形美について。

2024.01.24 デザイナーズ家具
「家具の彫刻家」ハンス・J・ウェグナーの時代を超えても揺るがない造形美について。
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ハンス・J・ウェグナー(Hans Jørgensen Wegner:デンマーク1914-2007)と言えば、木材などを使った椅子を500以上も作り出したプロダクトデザインの巨匠です。

アルネ・ヤコブセンやフィン・ユールと共に、北欧デザインの巨匠として語られることの多いウェグナー。彼が手がけたデザインは、現代でも多くの人の目に触れられ、多くのインテリアとして愛用されています。

この記事では、そんなハンス・J・ウェグナーの生涯をあらためて辿ることで、家具デザインの世界を探求していきます。そして、家具の歴史を知る楽しさ、その魅力を、一人でも多くの方に届けられたらと思っています。

1972年創業の旭川の家具メーカー「WOW」は、デザイン賞を受賞したデザイナーと共同製作した家具を取り扱っております。そんな作り手であるWOWが、「デザインの歴史」を紐解き、学びながら、「デザインとは何か」「いい家具とは何か」「これからの時代に求められる家具とは何か」を見つめ直すことには、大きな意義があるのではないか。私たちはそう考えています。

ハンス・J・ウェグナーの歴史と実績

1914年、当時ドイツ領だった南ユトランドのトゥナーという町で、靴職人であり、町議会の議員を務める父ピーター・ウェグナーと母ニコライ・ラーセンのもとに生まれました。

ウェグナーは13歳で家具製作の世界に足を踏み入れ、17歳の若さで木工マイスターの資格を獲得します。国立産業研究所で木材に関する専門知識を深めながら、20歳まで家具製作の修行を続け、その後兵役のためにコペンハーゲンへと向かいました。

兵役を終えた後、彼はコペンハーゲンに留まり、23歳でコペンハーゲン美術工芸学校に入学し、家具設計を学び始めます。

この時期に、後に親友となるボーエ・モーエンセンとの出会いがありました。

1938年に卒業後、1940年から1943年まで、著名なデザイナー、アルネ・ヤコブセンの事務所で働き、オルフス市庁舎の家具デザインに携わりました。

その後独立し、コペンハーゲン美術工芸学校で教鞭を取りながら、デンマーク協同連合会の家具部門でデザイン活動を行いました。

ハンス・J・ウェグナーという人物の歴史と実績
ボーエ・モーエンセン。アパートが同じだったウェグナーとは大親友で、一緒にいるときは家具の話ばかりだったとか。写真引用元

~カール・ハンセン&サンについて~

ちなみにカール・ハンセン&サンは、ウェグナーとの緊密なパートナーシップによって多くの傑作を世に送り出した家具メーカーです。1908年、デンマークのオーデンセで誕生し、長い歴史を持つ家具製造の名門であるカール・ハンセン&サンは、100年を超える伝統と卓越した技術で、デンマーク国内で革新的なデザインの家具を創り出してきました。

ハンス・J・ウェグナーが手がけるデザインの特徴・評価

「リ・デザイン」の精神によってデニッシュモダンを確立

北欧デザイナーは、クリント派非クリント派に分かれます。クリント派とは、「コーア・クリント」が提唱した「機能主義」を実践するデザイナーたちのことを指し、ウェグナーもまたクリント派のひとりでした。

ウェグナーは、クリントの意志を強く受け継いだボーエ・モーエンセンとの出会いによって、クリント派の影響を強く受けたのです。

クリント派は、「リ・デザイン」と呼ばれる、過去の作品を基に、現代の人々の暮らしに合わせてデザインを改良するデザイン方法を重視しました。

ウェグナーの椅子で最も有名な「Yチェア」も、過去の「チャイナチェア」にリ・デザインを繰り返すことで誕生したという系譜があります。

デザインをより純粋なものにしていく過程で、椅子という家具において、4本の脚と座面、背、アームなどの機能を見つめ、無駄が削がれていき、シンプルな造形、家具の本質を露わにしていったのです。

ハンス・J・ウェグナーの名作椅子

ウェグナーが手がけた数々の名作椅子の中でも代表的な作品をご紹介します。

チャイナチェア(FH4283)

チャイナチェア(FH4283)
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「チャイナチェア(FH4283)」は、17世紀から18世紀にかけての中国の伝統的な椅子「クァン・イ」に触発されて誕生した美しい家具です。

背もたれからアームにかけての流れるような彫刻的なラインが、木工職人の卓越した技術を物語っています。

見る角度によって異なる魅力を放つこの椅子は、ただ座るだけでなく、その姿を楽しむことでも豊かな心の充足をもたらします。

発表後も時代に応じてリデザインが重ねられ、このチャイナチェアは、後の「Yチェア」や「ザ・チェア」の誕生にも影響を与えている、デザイン性に優れた名作です。

Yチェア(CH24)

Yチェア(CH24)
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「CH24」というモデル名で知られ、親しみを込めて「Yチェア」とも呼ばれるこの椅子は、ハンス J. ウェグナーの代表作の一つです。

この椅子のデザインは、中国の明代の椅子からインスピレーションを受けており、チャイナチェアやザ・チェアといった他の名作の流れを汲んでいます。

1949年にカール・ハンセン&サンのために初めてデザインされたこの椅子は、発表されるやいなや大きな反響を呼びました。

背もたれのY字型のデザインが、全体のフォルムに柔らかな印象を与えています。そのシンプルで穏やかな佇まいは、どのような空間にも溶け込み、日本を含む多くの国で愛される北欧家具の一つとなっています。

ザ・チェア

ザ・チェア
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「ザ・チェア」という名で知られるこの椅子は、主張を抑えたシンプルなデザインが特徴です。

ハンス J. ウェグナーが自ら「初めて自分の真骨頂を見せた椅子」と評したこの作品は無駄を一切感じさせない美しい傑作であり、フォルムの洗練された美しさや、快適な座り心地など、あらゆる側面から高い完成度を誇っています。

背もたれからアームにかけての滑らかなラインが特徴的で、その素朴な姿が使用する人の魅力を際立たせます。1960年のアメリカ大統領選の際、テレビ討論会でジョン・F・ケネディが使用したことで、アメリカ全土にその名を轟かせました。

ピーコックチェア

ピーコックチェア
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「ピーコックチェア」という名のこの椅子は、その扇形の背もたれが、まるで孔雀が美しい羽を広げたような華やかな印象を与えます。

この名前は、その姿からインスピレーションを得て名付けられたものです。単に見た目が美しいだけでなく、この椅子は機能性にも優れています。体の曲線に沿うようなハイバックのカーブや、リラックスして座れる低めの座面など、細部にわたるデザインの工夫が、快適さを追求しています。

英国様式でよく見られるスピンドルを現代風にアレンジすることでモダンな印象に生まれ変わらせました。

まとめ

ハンス・ウェグナーは、クリントらが実践する「機能主義」の精神を受け継いだデザイナーの一人でした。北欧デザインの歴史を紐解いていくと、家具づくりにおける“スピリット”が、脈々と受け継がれ、現代にも息づいていることがわかります。

デザイナーにはかならずルーツがあるといわれていますが、その根源を探ることは、デザインの本質を理解する手助けとなるのではないでしょうか。

【参考文献】

『名作椅子の由来辞典』(著:西川栄明/誠文堂新光社)
美しい椅子―北欧4人の名匠のデザイン (著:島崎信/エイ文庫)

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