「デンマークデザインの父」アルネ・ヤコブセンがなぜ革新的なデザインを次々に生み出すことができたのか?

2024.01.10 デザイナーズ家具
「デンマークデザインの父」アルネ・ヤコブセンがなぜ革新的なデザインを次々に生み出すことができたのか?
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アルネ・ヤコブセン(Arne Emil Jacobsen:デンマーク1902-1971)は、建築家でありデザイナーとして、20世紀にデンマークから世界にその名を轟かせた、現代の北欧モダンデザインの礎を築いた人物です。

彼は「デンマークデザインの父」とも称され、その影響力は計り知れません。彼が手掛けたデザインはどれも革新的なものであり、今もなお世界中の人々を魅了し続けています。

この記事では、アルネ・ヤコブセンが、なぜ北欧デザインを語る上で欠かせないほどの重要人物なのかについて、生涯や実績から、代表作品までを通してご紹介します。

この記事では、そんなアルネ・ヤコブセンの生涯をあらためて辿ることで、家具デザインの世界を探求していきます。そして、家具の歴史を知る楽しさ、その魅力を、一人でも多くの方に届けられたらと思っています。

1972年創業の旭川の家具メーカー「WOW」は、デザイン賞を受賞したデザイナーと共同製作した家具を取り扱っております。そんな作り手であるWOWが、「デザインの歴史」を紐解き、学びながら、「デザインとは何か」「いい家具とは何か」「これからの時代に求められる家具とは何か」を見つめ直すことには、大きな意義があるのではないか。私たちはそう考えています。

アルネ・ヤコブセンの歴史と実績

アルネ・ヤコブセンの歴史と実績
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1902年、コペンハーゲンにてユダヤ系デンマーク人の家庭に生まれた彼は、貿易商を営む家庭の長男でした。

当初は画家を目指していましたが、父親の反対に遭い、家を出て船員として働く道を選びました。しかし、船酔いに悩まされたことから、その職を離れます。その後、建築家を勧める友人フレミング・ラッセンの影響を受け、建築家の道を目指すことになりました。 

22歳でデンマーク王立アカデミーに入学し、カイ・フィスカーに師事した彼は、1927年に卒業し、パウル・ホルセーの事務所に入りました。

1929年、フレミング・ラッセンと「未来の家」を発表し、脚光を浴び、自身の事務所を設立。1934年にはベルビュービーチ沿いの「ベラヴィスタ集合住宅」を設計し、これが初期の代表作となります。

1940年、ナチスドイツによるデンマーク占領時にはスウェーデンへ亡命。戦争が終わるまでを過ごしました。そして戦後、デザイン活動を再開しました。

1952年に「アントチェア」を発表し、世界的な知名度を得ました。その後も「スワンチェア」「エッグチェア」「セブンチェア」など、多くの名作椅子を生み出し、建築作品では「SASロイヤルホテル」「デンマーク国立銀行」などを手掛け、北欧モダニズムの巨匠としての地位を確立しました。

フリッツ・ハンセン社について

アルネ・ヤコブセンの家具デザインと深く関わっているのが、Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)社です。

北欧デンマークの家具界を代表するフリッツ・ハンセン社は、1872年に家具職人のフリッツ・ハンセンによって設立されました。

工業的な製造プロセスを用いて高品質な機能的家具を生み出すという哲学は、現在も変わらず、革新性とオリジナリティに満ちた上質な家具を製造し続けています。

1950年代は、アルネ・ヤコブセンとフリッツ・ハンセン社の協力関係が特に密接だった時期です。

この協力関係は1934年に始まりましたが、特にアントチェアの開発を通じて大きな飛躍を遂げました。

この椅子は、その後も多くの成功を収めたセブンチェアや他の圧力成型式合板製チェアに影響を与えており、今日でもフリッツ・ハンセン社の歴史において輝くマイルストーンとなっています。

アルネ・ヤコブセンの代表的な建築

SAS ロイヤルホテル(1960年)

SAS ロイヤルホテル(1960年)
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SASロイヤルホテルは、コペンハーゲンの街並みに調和しつつも、デンマークのモダニズム建築の傑作としてその名を馳せています。

このホテルは、建築家アルネ・ヤコブセンが細部に至るまでデザインを手掛けたことで世界的に知られ、モダニズム建築の理念を具現化しています。建物の比例から、インテリアの一つひとつに至るまで、ヤコブセンの創造性と芸術的才能が随所に表れています。

ヤコブセンの名作椅子である「エッグチェア」「スワンチェア」は、このホテルのためにデザインされたものです。

彼の包括的なアプローチにより創り出された「総合芸術」とも言えるこのホテルは、その卓越したデザインで称賛されています。

デンマーク国立銀行(1978年)

デンマーク国立銀行(1978年)
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コペンハーゲンの中心地にある「デンマーク国立銀行」は、ヤコブセンの遺作となった建築作品であり、彼は亡くなる間際まで設計に尽力していました。

ノルウェー産の黒大理石と暗色のミラーガラスによって堅牢な空気を放っています。

アルネ・ヤコブセンが手がけるデザインの特徴・評価

①こだわり抜いた独自のデザイン

アルネ・ヤコブセンは、コーア・クリントが採用した「リ・デザイン」や「数学的アプローチ」といった伝統的な手法とは一線を画す独創的なアプローチで作品を生み出しました。

ハンス・J・ウェグナーなどの他のデザイナー達とは異なり、木工のバックグラウンドがない彼は、1924年にデンマーク王立芸術アカデミーで建築を学び始める中で、独自のデザインを培っていきました。

ヤコブセンは、自身のデザインへの強いこだわりを持ち、周囲の反対意見にも屈せず、「自分が創りたいものを創る」という信念を持ち続けました。「オーフス市庁舎」や「SASロイヤルホテル」も、当時は酷評や揶揄の対象となりましたが、周囲の評価に関わらず、彼は建築と家具の調和を意識したデザインにこだわったのです。

当初は物議を醸した彼の革新的なデザインも、今では幅広い層からの支持を受けています。

②建築から家具までの「トータルデザイン」

完璧主義という哲学に基づき創造されるアルネ・ヤコブセンの作品群は、建築から家具、インテリアに至るまで、建築空間に関わるものを「トータルデザイン」することを目指していました。

1960年に設計された「SASロイヤルホテル」と共に生み出された「エッグチェア」、1971年の「デンマーク国立銀行」設計時に誕生した「バンカーズクロック」など、彼のトータルデザインの哲学が見事に体現された作品たちです。

ヤコブセンが「美しいものではなく、必要なものを作る」という考えを持っていた通り、彼の生み出した製品はすべて細部に至るまで計算されており、半世紀以上経過した現在もデンマーク国内外で高い評価を受け続けています。

これは彼が、クリエイターとしての視点とユーザーとしての視点の両方を巧みに融合させているからだと言えるでしょう。

アルネ・ヤコブセンの名作椅子

ヤコブセンが手がけた、現代まで語り継がれる名作椅子の中でも代表的な作品をご紹介します。

アントチェア

アントチェア
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アルネ・ヤコブセンの「アントチェア」は、イーズム夫妻の成型合板椅子に触発されて創り出された傑作です。

元々は座面と背もたれが別々にデザインされていましたが、これらを統合するためヤコブセンは数々の工夫を重ねました。

製造過程におけるシワや「クラック」の除去を通じて、アントチェア独特の顕著なくびれが生まれたのです。

この椅子を伝統ある家具メーカー「フリッツ・ハンセン」へ最初に持ち込んだ際、コスト面の問題で製造が断られました。

しかし、ヤコブセンは断念せず、彼がその時期に手掛けていた製薬会社「ノヴォ・ノルディスク」の社員食堂用の椅子としての採用を提案し、結果的に300脚の注文を獲得することに成功したという歴史を持ちます。

セブンチェア

セブンチェア
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「セブンチェア」は、 ヤコブセンの代表作のひとつであり、ミッドセンチュリーデザインの名作チェアです。

1952年に発表した「アントチェア」の後継として発表されて以来、現在までに全世界で700万台以上販売されており、“セブンチェアを超える椅子は未だに存在しない”と言われるほど、世界的ベストセラーとなっています。

また、セブンチェアには多くのバリエーションを持っている点が挙げられます。

アントチェアから派生したこの椅子は、足の形やカラーリング、塗りか布張りかなど、様々に展開しました。

居住性や大量生産に適したフォルムがこのようなバリエーションの豊富さを可能にしたと考えられます。

エッグチェア

エッグチェア
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アルネ・ヤコブセンが1958年にデザインした「エッグチェア」は、コペンハーゲンのSASロイヤルホテル専用に創造された目を引く作品です。

その名の通り、卵を連想させるユニークなハイバックのデザインが特徴的です。

この椅子は、アルミニウム製のスターベースの上に成形された合成素材のシェルを置き、常温硬化フォームと張り地で丁寧に覆われています。

ヤコブセンは、シェルの内部に硬質の発泡材を使うという当時の新技術を採用し、エッグチェアの製造を実現しました。座ると、まるで椅子に抱かれるような心地良さを体験できます。

スワンチェア

スワンチェア
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1958年、アルネ・ヤコブセンがデザインした「スワンチェア」は、コペンハーゲンのSASロイヤルホテルのために創造された独特な椅子です。

この椅子の特徴は、白鳥の羽根を連想させる優雅な左右のアームです。アルミニウム製のスターベースに支えられた合成素材の成形シェルが、常温硬化フォームの層と張り地で美しく覆われています。

全体が曲線で構成されたこのスワンチェアは、その革新的なデザインで当時から高い評価を受けていました。

まとめ

今回ご紹介したように、アルネ・ヤコブセンが手がけたデザインは、当時の北欧デザインにおいて非常に高い独自性を備え、革新的なものでした。

彼のデザインは、現代に至るまで多くのデザイナーに影響を与え、細部にいたるまでユーザー視点をつらぬき、造形と実用性を見事に融合させた人物でした。ヤコブセンの作品からは、それこそ「デザインとは何か」の根本哲学を学びとることができるのではないでしょうか。

【参考文献】

『名作椅子の由来辞典』(著:西川栄明/誠文堂新光社)
美しい椅子―北欧4人の名匠のデザイン (著:島崎信/エイ文庫)

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