北欧モダンとは?特徴・歴史・代表的なデザイナーについて。
2020.12.24 デザイナーズ家具「画期的」(エポックメイキング)という言葉があるように、芸術やファッションのみならず、「椅子」の世界においても、デザインの新たな地平を開拓したデザイナーが数々存在します。
今回のテーマは、20世紀に多くの名作椅子を生み出した北欧。いわゆる「北欧モダン」の時代にフォーカスしていきます。
北欧モダンは、「美しいデザインとは何か」という問いを「生活の合理性」の側面から考えたデザイン哲学だといえます。そんな北欧モダンに迫ることで、家具デザインの世界を探求していきます。そして、家具の歴史を知る楽しさ、その魅力を、一人でも多くの方に届けられたらと思っています。
1972年創業の旭川家具メーカー「WOW」は、デザイン賞を受賞したデザイナーと共同製作した家具を取り扱っております。そんな作り手であるWOWが、「デザインの歴史」を紐解き、学びながら、「デザインとは何か」「いい家具とは何か」「これからの時代に求められる家具とは何か」を見つめ直すことには、大きな意義があるのではないか。私たちはそう考えています。
北欧モダンとは
北欧モダンとは、20世紀以降の北欧のデザイナーズ家具や、インテリアスタイルを指します。実はドイツのデザイン教育機関「バウハウス」の哲学に影響を受けており、ルーツを辿ると様々な共通点がみられます。
北欧とは、「デンマーク」「スウェーデン」「ノルウェー」「フィンランド」の4ヶ国のことを指します。
後述しますが、有名な北欧モダンのデザイナーとして、アルヴァ・アアルト、アルネ・ヤコブセン、コーア・クリント、ブルーノ・マットソンなどが挙げられます。
北欧モダンは、北欧特有の厳しい冬が関係しています。北欧の冬は単に寒いだけでなく、日照時間も短いことで暗い時間が多い点が特徴です。
そんな冬を室内で家族と過ごすことが多いため「快適で居心地が良い飽きないデザイン性」「長く愛用できる実用性」という、北欧モダンのスタイルが醸成されていきました。
北欧モダンが誕生した背景
20世紀以前の時代は、上流階級向けの豪奢なデザインがまだまだ主流で、一般家庭用の椅子は簡素で粗末なつくりが多かったといわれています。
やがて20世紀に突入し、“合理”の時代が到来。大衆向けの家具づくりが主流になるにつれて、いかに機能的かが問われるようになりました。機能と美が融合したデザインが評価されるようになったのです。
実はもともと北欧家具も、1900年代初頭は、貴族向けの大きな家具が主流でした。
しかし1920年代、革新的な技術志向の考えを持つドイツの「バウハウス」が登場し、北欧もその合理思考のセンスに影響を受けることになります。北欧の伝統的なクラフトマンシップを継承しながら、他のヨーロッパ諸国にはない独自の発展を遂げていきました。
やがて、北欧デザインが各地の博覧会などで注目を浴びるようになり、北欧の画期的なデザインが世の中に知れ渡ります。
例えば1925年のパリ万博では弱冠23歳の建築家兼デザイナーであるアルネ・ヤコブセンの椅子が銀賞を受賞しました。
1930年のスウェーデンの建築家グンナール・アスプルンドが主催したストックホルム博覧会では、北欧の建築家やデザイナーの考え方を刺激し、モダンデザインがさらに開花していきました。
1940年代には、生活協同組合がデンマーク国民を豊かにする目的で「高い質、買いやすい価格、高い機能やデザインを」と掲げた家具製造したところから、現在のような北欧モダンスタイルの家具が発達したといわれています。
北欧名作椅子とデザイナー
北欧諸国の代表的なデザイナーとその名作椅子をご紹介していきます。
スウェーデンの有名デザイナーと椅子
1845年に、デザインセンターの先駆けと言える「スウェーデン工芸工業デザイン協会」が設立され、スウェーデンは北欧の中でもモダンデザインの動きが最も早いと言えます。
そんなスウェーデンのモダンデザインの牽引役となったのが、タイプが異なるエリック・グンナール・アスプルンドとカール・マルムステンの2人でした。
エリック・グンナール・アスプルンド
エリック・グンナール・アスプルンドは、ストックホルム出身の建築家です。
建築家である彼は、「森の礼拝堂・火葬場」「ストックホルム市立図書館」「ヨーテボリ裁判所増築」などの代表作があり、それらの建築物に置く椅子もデザインしてきました。
その中でも名作と言われているのが「セナ・ラウンジチェア」。この椅子は、1925年のパリ万博のスウェーデン館に展示され、背もたれから座にかかる緩やかで優しいラインの美しさが高く評価されました。
カール・マルムステン
カール・マルムステンは、ストックホルム出身の家具デザイナーであり工芸作家、教育者として知られています。
彼は生前に「師は、スウェーデンの母なる自然と伝統的な家具やインテリア」だったと述べ、その言葉通り、椅子や家具作品にはスウェーデンの伝統と思われるような手仕事の感覚が現れ、農民が使用していた素朴な椅子とモダンデザインを上手く融合させました。
そんな彼の名作椅子と言われているのが「市庁舎のアームチェア」です。この椅子は、1916年に行われたストックホルムの市役所のための家具デザインコンペで1位に輝きました。
背板の雰囲気やフレーム全体のフォルムは、18世紀イギリスのチッペンデール様式の影響を受け作られたものと言われています。
デンマークの有名デザイナーと椅子
20世紀に活躍した北欧デザイナーの中でも、デンマーク人の活躍が目立つことから、北欧モダンデザインの中心的存在はやはりデンマークだと言えるでしょう。
その中でも、大きな存在感を放つのがコーア・クリントです。
デンマークは元々資源が豊富にある国ではなかったため、身近にある素材で手作りのものを作ると行った風土があり、質素な生活が伝統的に営まれてきました。
そのため、デンマークでは大量工業生産をする方向ではなく、職人の高度な技術を用いたモダンデザインが発展していきました。
第二次世界大戦後は、アメリカでの巡回展開催などにより、デンマーク家具の評判が高まりました。特に、フィン・ユールの椅子はインテリア雑誌などでも大きく取り上げられ大人気となりました。
コーア・クリント
コーア・クリントは、コペンハーゲン近郊のフレデリクスベルグ出身の建築家でありデザイナー、家具研究家、教育者です。
王立芸術アカデミー建築科で学び、1924年に建築科に家具コースが新設されると家具デザインを教えるようになり、後に教授となりました。1920年代以降、デンマークから名作椅子が誕生したのも彼の存在があってこそだと言われています。
彼は、古典家具の研究に情熱を注ぐと共に、人間工学の先駆となる考え方を確立しました。代表作としては「ファーボウ・チェア」があります。
彼が研究したイギリス様式家具(チッペンデールなど)の要素を取り入れながらも、シンプルに仕上げているのがこの椅子の特徴です。
フィン・ユール
フィン・ユールはコペンハーゲン出身の建築家でありデザイナーでもあります。
彼の代表作であるイージーチェア「No.45」は、世界で最も美しいアームを持つ椅子と言われています。
直線と平面のフォルムを用いることが多かったクリントやその教え子たちとは一線を画し、デンマークでは独自の路線を歩んだことで「家具の彫刻家」とも言われていました。
当初、デンマークでは評価されませんでしたが、第二次世界大戦後にアメリカで注目を浴びてから、逆輸入的にデンマークでも評価を得ました。
フィンランドの有名デザイナーと椅子
フィンランドは、他の北欧諸国とは少し異なった歴史や民族に属しています。
19世紀初頭から約100年間にも渡って、ロシアの支配下にあった後に、ロシア革命に乗じて1917年に独立しました。このナショナリズムの高揚からロマン主義的ナショナリズムが誕生しました。
フィンランドのデザイナーとしては、アルヴァ・アアルトが国内では英雄的存在として有名だが、1900年代初めの建築や家具デザインを牽引したのは、エリエル・サーリネンです。
他にも、フィンランドの伝統木材家具を、スタッキングやノックダウン方式で機能性やコストを考慮してデザインした、イルマリ・タピオヴァーラの存在も大きいものと言えるでしょう。
アルヴァ・アアルト
アルヴァ・アアルトは、フィンランド中西部のクオルタネ出身の建築家であり家具デザイナーです。
技術力、デザイン力、マーケティングと総合的に高い評価を得ていた彼は、フィンランドでは英雄的存在で、ユーロ通貨導入前までは50マルカ紙幣に横顔が描かれていました。
建築家としても多くの設計を手がけ、「パイミオのサナトリウム」や「ヴィープリの図書館」など、自らで設計した建築物に用いる椅子や家具のデザインにも多数携わってきました。
彼がデザインした椅子は、椅子の歴史においてエポックとなる様な「スツール60」「チェアNo.66」「パイミオチェアNo.41」などが広く知られています。
エリエル・サーリネン
エリエル・サーリネンは、フィンランドのランタサルミ出身の建築家です。
彼の初期作品である1900年のパリ万博「フィンランド館」は、伝統的なフィンランドの木造建築とゴシック的要素のある様式を組み合わせたことで知られています。
他にも、ロマン主義的ナショナリズムを反映した「ヘルシンキ中央駅」は代表作として知られています。
彼の名作椅子としては「ホワイトチェア」が有名です。1910年にヘルシンキ西方に位置するヴィトレスクの自宅に置いていた椅子で、座の淡いピンク色の革張りを除けば、あとは全て白色に塗ってあるのが特徴的な椅子です。
イルマリ・タピオヴァーラ
フィンランドハメーンリンナ出身で、家具デザイナーとしてアアルトに匹敵する巨匠と言われています。
海外で有名建築家の元などで様々な経験を積んだ彼は、大先輩のアアルトの影響が上手く醸成され、フィンランドらしい素朴さとハンディクラフトの要素を持つデザインを生み出しました。
彼の名作椅子としては「アスラック」が知られています。この椅子は、初期の代表作である「ドムスチェア」をアレンジし、素材を全て成型合板にしています。後脚が背に繋がる付近で、成型合板がフィンガージョイントされているのも特徴的な点です。
ノルウェーの有名デザイナーと椅子
北欧諸国の中では、ノルウェーのデザインの近代化が最も遅く、20世紀に入るとようやくドイツのユーゲントシュティール形式や新古典様式の影響を受けるようになりました。
ノルウェーの椅子が世界に認められる様になったのは、60年代になってからであり、特にイングマール・レリングの「シエスタ」によってノルウェーデザインが注目される様になりました。
イングマール・レリング
イングマーレ・リングは、ノルウェーのシッキルヴェン出身の家具・インテリアデザイナーです。
10代半ばから家具製作会社で木工の基礎を学び、ノルウェー国立アカデミーを卒業後はアルネ・コルスモスに師事。独立後は、家具のデザインからノルウェー王室のヨットの内装を手がけたりと、精力的に活動を続けました。
彼の名作椅子としては、「シエスタ」が代表的なものとして知られています。
この椅子は、背と座がカンチレバータイプになっており、成型合板で製作するには高い技術を必要とすることで評価を集め、ノルウェー国内だけでなく、世界50ヵ国以上で100万脚以上が販売された大ヒット商品となりました。
北欧モダンの特徴と魅力
冬の長い北欧の気候では、人々が室内で過ごす時間が長くなります。
寒くて暗い冬を、少しでも暖かく明るく過ごせるようにデザインされているのが北欧家具です。
今や日本を含め、世界各国で人気の北欧家具。見た目のデザイン面はもちろん、他の魅力も知ることで、さらに北欧家具に魅力を感じてもらえることでしょう。
以下に、北欧家具の特徴を5つご紹介します。
①誰にでも共有できる飽きないデザイン
北欧家具に求める第一の条件としては、長い時間を家族や友人と楽しく過ごすために、だれに対しても、使いやすく居心地が良く、飽きないことが求められます。
だれにも、どのようなときにも受け入れられ、共有できるデザインであるということです。あまり無機質な感じは強くなく、最近では”北欧モダン”とも呼ばれています。
ベースはシンプルですが、置いている家具がモダンなものを使っていることが多いです。
北欧家具のデザインとして、特に椅子にみられるような美しい曲線デザインはもう一つの特徴です。テーブルとかスツール類にもさまざまな曲線美の垢抜けたデザインを見ることができます。
ただ美しいだけでなく、よく機能性が突き詰められております。体にピッタリ合うようによく計算され曲線で、長く座っていても疲れず、楽に座っていられるよう作られております。
②小物は可愛い柄と色が挿し色
ベースの壁や家具などはシンプルですが、小物にはとても可愛い柄やビビッドな色を使ったデザイン性の高いものを取り入れます。
クッションなどは可愛い柄が入っているものを取りいれてアクセントや挿し色にします。周りがシンプルなので、そういったアクセントがとても映えます。
③ナチュラルでシンプル
使いやすく、飽きないデザインであるためにはナチュラルであることと並んで、シンプルであることも重要な特徴となっています。
白を基調としたナチュラルなイメージですが、白以外にもモノトーンもあり、ほっこり落ち着く木を使った家具をたくさん使います。自然と一緒に共存しているかのような雰囲気の、ナチュラルなインテリアです。
また、出来るだけ無駄を省き、大切な機能に絞り込んだシンプルなデザインが多いです。
シンプルながら、センスが良く、洗練され、垢抜けした、高級感のあることも欠かせません。北欧の人たちの、合理的・効率的な中にも、謙虚で、美的センスを忘れない気質が感じ取れます。
④実用的
①~③のデザインや色、シンプルさに加えて、実際にその家具を使う人が、長い間使っても疲れることなく、居心地よく使え、丈夫で長持ちします。
これらの要素を兼ね備えた「実用的な家具」が北欧家具の大切な特徴となっております。ここにも、北欧の人たちの、合理的・効率的な気質が感じられます。
⑤天然木
欧州家具がナチュラルであることの最大の要素となるのは、素材としての天然木にあります。
長い夜と寒さのために、インテリアとしては、温かみが感じられ、明るく、居心地の良いスタイルです。この温かみのある雰囲気は、北欧に恵まれる天然の材木を用いた家具によって作り出されます。
加工素材ではなく、天然の無垢材で作られた家具は、部屋の中で自然が味わえ、穏やかなぬくもり、なごみなどナチュラルな雰囲気を醸し出します。
木材で自然色を出すことと、併せて、庭とか山、大地の色感を用いても、自然の中にいるような、温かく落ち着いた感じを出します。
また、木材以外の素材として、リネンとかウールなど天然素材が好んで用いられます。合成繊維にはない安堵感と落着きを与えてくれます。
日本人のための椅子も作った北欧家具デザイナー「ブルーノ・マットソン」
北欧家具の名産地・スウェーデン。この地で生まれたブルーノ・マットソン(1907~88)は、「家具デザインに革命をもたらした」と称される偉大な家具デザイナーの一人です。5代続く家具屋の息子として、幼い頃から家具の知識を身に着け、わずか20代にして後世に傑作と語り継がれる椅子「EVA(エヴァ)」を生み出しました。
ブルーノ・マットソンの椅子の特徴は、「成型合板」や「曲げ木」の技術を駆使した軽快でやわらかいフォルム。無垢材(天然木)では実現できない自由でダイナミックなデザインを可能にすることで、椅子の可能性を大きく広げました。
- 曲げ木
一本の木に水分を含ませて熱することで柔らかくし、曲げ加工を施すこと。19世紀頃、ドイツの家具職人によって完成された伝統ある技術。日本には、奇しくもマットソンの生まれた1907年に曲げ木の技術が伝わったとされている。
そんなマットソンですが、実は日本にもゆかりのある人物です。もともと北欧家具は、西洋人の体格を前提に設計されるものが多いのですが、マットソンは、日本人が快適に座れる椅子を目的に一からデザインを書き起こし、畳の上でも使える「安楽椅子」を考案しました。
使われてこそ家具——マットソンのまなざしには、WOWの目指す家具づくりの本質があります。デザインは、単純に見た目がいいだけでは意味がありません。あるイタリアのデザイナーは「“ナイス”にするだけじゃ物足りない」と言い放ちました。デザインは、使う人の求めているものや、暮らしをカタチにしたものです。そこではじめて真の美しいデザインがあらわれます。いわゆる“機能美”ですね。
WOWも、人々の暮らしに役立つ生活道具をお届けするために、日々家具づくりを行っています。みなさんがもし、家具選びに困ったときは、自分が家具に何を求めているのか、どのような生活スタイルなのかを、あらためて見つめ直してみてください。その過程で、きっとあなたにぴったりの家具が見つかるはずです。
【参考資料】
『名作椅子の由来図典』(著:西川栄明/誠文堂新光社)
『Reading fremtiden LIFE PATH 100年先につながる暮らし』「Vol.1 時代を築いた北欧デザインのはじまり」
さいごに:北欧デザイナーとコラボした家具も。北海道の天然木を生かした生活道具たち。
北海道旭川の家具メーカー「WOW」は、イージーカスタム・カスタムオーダーを得意とする家具メーカーです。全国配送も可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
- 日本六大家具の地・北海道旭川で1972年創業
- 受賞実績のある確かなデザイン
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幅や奥行のカスタムはおまかせください。ご要望があれば、あなたの暮らしのスタイルに合わせて、ぴったりの家具をご用意します。まずはお気軽にご相談ください。
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