ボーエ・モーエンセン | 「リ・デザイン」の継承者。使い手のための家具を作り続けたストイックな仕事人。

2024.03.20 デザイナーズ家具
ボーエ・モーエンセン | 「リ・デザイン」の継承者。使い手のための家具を作り続けたストイックな仕事人。
引用元

ボーエ・モーエンセン(Børge Mogensen:1914~1972年)は、アルネ・ヤコブセンハンス・J・ウェグナーと共に、デンマークデザインを世界に知らしめた家具デザイナーです。

20世紀半ばに活躍したモーエンセンの作品は、シンプルで機能的なデザインが特徴で、発表から半世紀以上経った今でも世界中で愛され続けています。

モーエンセンは、コーア・クリント、モーエンス・コッホというデンマークの巨匠家具デザイナーに師事しました。彼らの伝統的な技術と革新的な精神を受け継ぎ、モーエンセンは独自のスタイルを確立していきます。

1950年に自身の設計事務所を開設したモーエンセンは、その後も数々の名作を生み出しました。

モーエンセンの作品は、機能性と美しさを兼ね備えただけでなく、温かみのある素材使いや人間工学に基づいた設計で、人々の暮らしに寄り添うデザインとして高く評価されています。

モーエンセンは昔からストイックな仕事人間だったらしく、どんなに夜遅くまで飲んでも、翌朝シャキシャキと仕事をしていたそうです。

モーエンセンが1972年に亡くなった後も、彼の作品は根強く人気があり、J39は発表から現在まで生産を中止することなく作り続けられています。彼の功績は、デンマークモダンという概念を世界に広めただけでなく、現代の家具デザインに大きな影響を与え続けています。

1972年創業の旭川の家具メーカー「WOW」は、デザイン賞を受賞したデザイナーと共同製作した家具を取り扱っております。そんな作り手であるWOWが、「デザインの歴史」を紐解き、学びながら、「デザインとは何か」「いい家具とは何か」「これからの時代に求められる家具とは何か」を見つめ直すことには、大きな意義があるのではないか。私たちはそう考えています。

ボーエ・モーエンセンの特徴

クラシックとモダンの融合

伝統的な職人としての訓練を受けたモーエンセンの家具は、モダニズムの影響を受けながらも、どこか懐かしさを感じさせるデザインでした。

彼は古典的なデザインで多くの人々を魅了し、同時に革新的なアイデアを作品に取り入れていました。

革新的なデザイン

1945年には、側面を下げることができる革紐のソファをデザインしました。

1949年には、背もたれが有機的なしずく型に切り取られた椅子を発表し、批評家から「将来の椅子のモデル」と称賛されました。

1951年の家具職人展では、デンマーク産オーク材、革張り、スレートタイルを組み合わせた革新的なインテリアを発表しました。

ファミリー層を意識した家具づくり

1953年には、「This is Where We Live」と題したファミリー ルーム セットをデザインしました。これは、作業台と裁縫台を備えたリビング ルームという新しいコンセプトで、家族が複数の活動に同時に参加できる空間を実現しました。

コーア・クリントから受け継いだデザインの核心

デザイン哲学の継承

モーエンセンは、家具デザイナーの巨匠コーア・クリントの下で働き、古典を現代的に解釈する「リ・デザイン」の哲学を学びました。クラシックでシンプル、そして機能性の高い家具への深いこだわりを育んでいったのです。

そしてモーエンセンは、単なる家具製造にとどまらず、現代のライフスタイルに合わせたカスタマイズ可能な家庭用品の開発にも興味を持ち始めました。

やがてモーエンセンはグレーテ・マイヤーと共同で、1954年に「Boligens Byggeskabe(家の建設用食器棚)」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトは、単に家具を配置するのではなく、部屋の一部として収納を構築するという画期的なアイデアに基づいていました。

徹底的な研究に基づいた収納性

モーエンセンは、カトラリーやシャツなどの一般的な物の寸法と、平均的な人が所有する個数を徹底的に研究しました。

その結果に基づいて、彼は引き出しや棚の基本的な幅と深さを定め、収納システム構築のマニュアルとして情報表を出版しました。そして誕生したのが傑作「ORESUND」の棚シリーズです。

ボーエ・モーエンセンの代表作

スパニッシュチェア

スパニッシュチェア
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スペイン旅行中に見かけた貴族階級の椅子からインスピレーションを得て、モーエンセンが自身の自邸用にデザインしたのがスペインチェアです。

スペインの伝統的な様式を、モーエンセン独自の解釈でシンプルにリデザインしたこの椅子は、彼の代表作の一つとして根強い人気を誇っています。

厚手の1枚革を使った背座は、使い込むほどに柔らかく体に馴染んでいきます。革は使い続けることで伸びてしまいますが、背面と座面の裏側にあるベルトで張り具合を調整できるので、長く愛用することができます。

色も時間をかけて味わい深く変化していくので、育てる楽しみも味わえます。

J39 Shaker Chair(The People’s Chair)

J39 Shaker Chair(The People’s Chair)
引用元

J39は、発表以来一度も生産中止になることなく、デンマークでベストセラーを続けている椅子です。

良質でありながら、誰でも購入できるリーズナブルな価格を実現するというコンセプトで生まれました。「みんなの椅子」(ピープルズチェア)と呼ばれるほど、多くの人々に愛されています。

ちなみに「シェーカー」というのは、シェーカー教徒が作っていた椅子「シェーカーチェア」がモチーフになっているために名づけられました。師匠のコーア・クリントの「リ・デザイン」の哲学を体現したかのような傑作です。

さいごに

実はモーエンセンは、ヴェルナー・パントンやアルネ・ヤコブセンとはデザインの在り方をめぐって対立し、彼らを「ユーザー視点に立たない気取ったデザイン」と強く批判していたそうです。

あくまでもユーザー視点に立つこと。師のコーア・クリントから受け継いだデザイン哲学が、モーエンセンの家具づくりに息づいていることがわかるエピソードですね。

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